スピードマスター
時計が入っている箱を開けると、そこには父のスピードマスターが去年から定位置に鎮座している。
父が現役時代に母に買ってもらったもので、ずっと前にブレスが壊れたらしく一昨年その姿を見せてもらった。
『何これ!?どうしたの!?』 と思わず母に言ってしまったのは、そのオメガにボロボロの革ベルトが付いていたから。しかも時計は止まったまま。
話を聞くと『ブレスが壊れちゃって、商店街の時計屋さんに持って行ったんだけど直せないって言われて見積もりで何千円かとられて、このベルトを付けて戻された。』
…嘘でしょ…
純正のメタルブレスが付いていたのに…代わりに安い革ベルトが付いている…
ブレスはどこに…!?
あぁ何でその時相談してくれなかったのお母さん…
と今さら言っても仕方がないので、そのボロボロのベルトが付いたオメガを預かることにした。
その時計屋は、姉が持ち込んだ大事な掛け時計も無理矢理こじ開け、プレートにヒビが入り
『これは開かない仕様だわ。誰も直せんよ。』と言った。店主のおじいさんに文句を言うことも出来ず、肩を落として帰ってきた姉から時計を預かり、Tちゃんが直してくれた。
ヒビが入ったまま、姉の部屋で今もチクタク動いている。
その時も仕事なめんなよ!と憤慨したが、田舎だから仕方がないのだろう。
実家のリノベーションが決まり、思い出の品を(写真までも!)ポイポイ捨てる母を
父は悲しそうに見ていた。『そんなに捨てなくてもいいんじゃない?』と言っても
『場所をとるから』と母は捨てまくった。
おそらく改修工事をしたら家は昔の面影をなくし、
積み重ねてきた思い出の品までどんどんなくなっていく。
せめて残っている父の思い出を守らなくてはと思い、オメガをオーバーホールすることにした。
さすがに正規カスタマーに出すお金はないので、
アンティーク時計でお世話になっている時計屋にお願いすることにしたのだが、
なんと水に落としたのか中の部品が腐っていて修理代は3万8千円だった。
まさか修理になるとは…まぁいいか。 ブレスに付け替えて父に返そう。
そのブレスを探すのに時間がかかってしまった。 純正のベルトを買えばよかったのだけれど、父が時計をするかもわからない、 いや、多分しない確率のほうが遥かに高かったのでとても純正のブレスを買う気にはなれなかった。
社外品は買ったことがないので質が全然わからない。
革でもよかったのだけど、良い革ベルトを買うとヘタしたらメタルより高い。
どうしようかなと思ってるうちに仕事が繁忙期に入り、つい後回しになっていた。
でもやっと、【やることリスト】1.父にオメガを返す。
を、ついに消す時が…!
散々悩んだくせに、『使うのがわかったら良いものを買おう』と決め、
とりあえずのメタルブレスを付けるためにジェランチャでオイスターブレスを買った。
オメガにオイスターって…と自分でも思ったが、
無垢だしペラペラではないだろうと自分を納得させた。
ストレートエンドが嫌で弓かんはTちゃんがなんとかしてくれるだろうと思って買ったが、やはり合わず、Tちゃんがかなり苦労をして付け替えてくれた。
『ブレスの調整は自分でやってね』と言われたので、
駒詰めをし(結局必要なかった)父に渡したが、どうしても自分で付けられない。
細かい作業が出来ないので、これだけずれていたらはめられない。
結局再びTちゃんを頼ることになり、バックルの爪が半分以上乗っかるまで力ずくで 隙間を詰めてもらった。(作りが雑すぎると言っていたがあの値段じゃ仕方がない)
おー、動いてる!
これなら父でもはめられるようで喜んでいた。
使わなくても、今出来ることはしてあげたい娘心で、結局は自己満足なんだけど。
日付など、定期的に確認して合わせてあげよう。